制度と価値観の変化でより身近に!働き方が広がる「複業」の進め方
変化が激しいビジネスシーン、解決の糸口が見えない人材不足──。
働き方改革の推進もあって、従来とは異なる形のワークスタイルへと踏み出す人が増えています。
その代表的な選択肢が、「解禁」によって注目される「フクギョウ=複業/副業」。
2つの違いやメリットなどを読み解きます。
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「複業」と「副業」の違いとは?
「解禁」を受けて高まる「フクギョウ」の二つのスタイル
労働環境の改善や生産性の向上、多様な人材の活用などを目指す「働き方改革」が推進される中、従来の枠組みにとらわれないワークスタイルへの関心が高まっています。
その流れを後押しすることになったのが、2018年に国がまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」。
これを機に従業員の勤務時間外の労働に関する制限をゆるめ、副業を解禁する企業も増加しました。
同年は「副業元年」とも呼ばれ、従来はなかなか認められなかった「自分のスキルや特性を生かした柔軟な働き方」に対する社会的な理解が、着実に深まっています。
この解禁を受けて「複業/副業」への関心も高まり、実践者も増えています。
どちらも読み方は「フクギョウ」で、二つ以上の企業から収入を得る点も共通していますが、いったいどのような違いがあるのでしょうか。
「副業」は、主な収入源となる「本業」が中心にある働き方。
メインの仕事に従事している以外の時間や労力をやりくりして、アルバイト・パートとして働いたり、あるいはみずから別の事業を起こしてビジネスを展開したりするスタイルです。
一方の「複業」は、「本業を定めずにいくつかの仕事を掛け持ちしている働き方」と定義することができるでしょう。
「メインの仕事/サブの仕事」などと明確に切り分けて考えず、同時並行的にさまざまな業務に関わっていることが特徴です(図1)。
企業と労働者、双方の意識の変化で社会に広がる
「フクギョウ」に対する企業の受け止め方も変わり、先進的な取り組みを実践して一定の成果を上げる企業も登場しています。
例えば「100人いれば、100通りの働き方」を掲げるサイボウズ株式会社は、他社に勤務している人、個人事業主などを対象にした「複(副)業採用」を展開。
複数の企業に所属する「複業家」の活躍なども知られています。
労働者側の変化は数字にも現れています。
クラウドソーシングサービスを展開するランサーズ株式会社が実施した「フリーランス実態調査2019年版」によると、国内にいる広義のフリーランス人口は1087万人で3年連続ほぼ横ばいではあるものの、2015年(913万人)比では約19%の伸び。
市場規模は20.4兆円で、こちらは2015年(14.3兆円)比約42.6%増と大幅に拡大しています(図2)。
IT技術の進展などによって、仕事とは「オフィスに通うこと」ではなくなりました。
時間や場所の制約はどんどん取り払われており、育児や介護などの事情によってフルタイムでは働けない場合の収入確保の道も開かれています。
「フクギョウ」に意欲を示す人々が増えているのも、当然の流れだと言えるでしょう。
メリットから探るパラレルワーク
「不透明な時代」のリスク分散に大きな効果
それでは「複業」にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
一般的に正社員として働く利点は、毎月決まった給与が得られ、各種の社会保険なども完備されている「安定感・安心感」だと言われています。
一方で給与などについては、会社の売り上げや景気の動向などさまざまな要因が影響するため、かならずしも個人の貢献度がそのまま給与に反映されるとは限りません。
それどころか、会社の業績が急激に下降した場合、個人の努力とは無関係に賃金カットやリストラの敢行、さらに最悪の場合は倒産して職を失う可能性も否定できません。
そこでリスクヘッジの観点から、「複業/副業」によって「いつ、どうなっても影響を最小限で抑えられる」働き方を探る人が増えてきました。
1社のみに依存しない「複業」で生計を立てているパラレルワーカーなら十分なリスク分散になりますし、「副業」でも収入がゼロにならなければ、新しい職探しに余裕が持てるでしょう。
万が一の事態に見舞われても、ダメージを小さく抑えることができるのです。
働き方のモデルとして、主流を占めてきた「大手企業なら安心」「定年まで勤め上げてのんびりと老後を」などの考え方は根強く残りつつも、終身雇用はすでに過去のものとなっています。
東京商工リサーチによると毎年8000社を超える企業が倒産しているという厳しい現実があり、国内では都市部と地方の地域間格差の拡大、中間層の縮小による富裕層と貧困層の二極化が進行。
将来への展望が見えづらく、漠然とした不安が生まれやすくなっていることが、ワークスタイルの多様化を活発にさせている要因の一つと考えられます。
収入増やスキルの向上も可能に
「複業」では原則として、「仕事を多くするほど収入が増える」のが大きな魅力。
業務量に比例して、ダイレクトな手応えを得ることが期待できます。
しかも、自分の得意分野、関心が高い領域などの仕事を選ぶことが可能になりますから、働くことに対するモチベーションが維持しやすい側面もあります。
目指すキャリアを実現するために戦略的に「複業」先を選択し、スキルアップを図っているパラレルワーカーもいます。
また、幅広い分野で働く人とネットワークを築けることも大きな利点。
その仕事がまた別の仕事の呼び水となることもあります。
経験と技術を蓄積し、複数の法人からの評価を得て、人脈を築いていく──。
この循環を軌道に乗せることで、万一の場合に自らの力で自分を守る基盤が作りやすくなります。
複数の仕事に本格的に取り組む「複業」なら、その効果はより大きなものが期待できるでしょう。
「複業」に向いているのはどんな人?
自分自身のマネジメント能力が問われる
「複業」を始めたいと考える理由として、収入アップに加え、仕事の内容や、働き方を自由に決定したいという思いがある人も多いと思います。
そこで問われるのが自己管理能力です。
パラレルワークでは、自分がこなせる仕事の量をきちんと見極め、その質をコントロールしていくことが特に重要になります。
収入増を優先して業務を詰め込んだ結果、オーバーワークで納期を守れなかったり、体調を崩してしまったり。
そうなれば、いくら高度な専門性を備えた人材であっても、責任感が欠如しているとみなされ、信用を失ってしまう可能性があります。
また、時代やニーズの変化を意識して顧客の要望を捉え、自分を売り込んでいくことも求められます。
受け身の姿勢で仕事を待つばかりではなく、積極的に新しいスキルを吸収し、「できること」の幅を広げていくための前向きさは必須。
旺盛な好奇心、向上心も適性のひとつと言えそうです。
- 仕事の量や質、スケジュールをしっかり管理しながら、信用を得て継続的に仕事を確保し、収入の安定化を図る。
- 知識や技術を常にアップデートできるよう努める。
- 直接クライアントとやりとりしながら、バックオフィスの役割も兼ねる。
これらは複業や副業、フリーランスで働いていく上で欠かせない能力といえるでしょう。
成功への第一歩は、やみくもに自由さを求めて複業をスタートさせるのではなく、将来のいつの時点で、どんな仕事、生活をしていたいかを描くこと。
ただし、自分のことを客観的に眺めるのは難しいものです。
方向性を絞り込むうえで、第三者の視点でプロのアドバイスなどを受けてみるといいでしょう。
パーソルクロステクノロジー「キャリアパスに迷ったら」
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「フクギョウ」はもっと社会に受け入れられていく
人材の流動化が進んでいると言われるいま、組織の活性化やイノベーションの創出、雇用コストの抑制などを期待して、パラレルワーカーの受け入れに前向きな企業も増加しています。
複業で自分の力を最大限に発揮する働き方を実践している人材なら、安定したパフォーマンスを望むことができますし、他の勤務先で培ったスキルを自社に還元して、新しいアイデアにつなげたり、社員に刺激を与える存在になってくれたりすることも、企業側にとって大きな利点になるはずです。
そして人材不足の今では、優秀な人材を獲得しやすくなるのも、とりわけ重要なポイント。
働きやすい会社を求める社会の要請もあり、今後は「フクギョウ」がより一般的になっていく可能性は高いといえます。
働き方、ビジネスのあり方にダイナミックな変革が訪れているこの時期に、進む道を1本に限定する必要はありません。
専門的な技術が求められる職業に就いていて、自己成長への意欲が高い人なら、「もっと良い環境で力を試してみたい」「さまざまなことにチャレンジしたい」と考えたことのある人も多いはずです。
そんなときには次の一歩の選択肢として、「フクギョウ」の可能性を探ってみるのも悪くないでしょう。