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派遣社員の厚生年金への加入条件|受給金額や「加入したくない」場合の対応

老後資金や、ケガ・病気などで働けなくなった際のリスクに対して整備されている「公的年金制度」には、対象年齢のすべての国民が加入する「国民年金」と、一定の条件を満たした人が加入する「厚生年金」があります。厚生年金への加入は、将来的に支給される年金の増額になるため、老後の備えとしての安心感も高まる制度といえます。

しかし「厚生年金は正社員向けの制度では?」「派遣社員は厚生年金に加入できないのでは?」など、不安を訴える声も聞かれます。そこで本記事では、派遣社員における厚生年金への加入可否や条件などについて解説します。

条件を満たせば派遣社員も厚生年金に加入できる

派遣社員は正社員と同様に厚生年金に加入できるのか? 結論からいうと、派遣社員も厚生年金に加入できます。日本年金機構では、「派遣社員でも条件を満たした場合は、厚生年金に加入できる」と明言しています。

厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する70歳未満で加入条件を満たしている方は、厚生年金保険の被保険者となります。加入条件を満たしている派遣社員の方は、派遣元の会社で厚生年金保険に加入することになります。

引用:私は派遣社員ですが、厚生年金保険に加入することになるのですか。また、派遣元と派遣先のどちらで加入するのですか|日本年金機構

なお、正しくは「条件を満たした場合は、加入の義務が発生する」の解釈です。つまり派遣社員であっても、加入条件を満たした場合は強制的に厚生年金に加入しなくてはいけません。

また、厚生年金の保険料は、派遣社員の雇用主である派遣会社と折半して支払います。2023年現在の保険料率は一律18.3%となるため、たとえば標準報酬月額が25万円の場合は、「(25万円×18.3%)÷2=22,875円」が、派遣社員が月々に支払う保険料です。

 

【事業所】厚生年金の加入条件

上述した厚生年金の加入条件について、まずは「事業所」の側から解説します。こちらは「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2種類があります。

厚生年金の加入・適用条件
強制適用事業所
  • 株式会社など法人事業所
  • 従業員が常時5人以上いる個人の事業所(※農林漁業、サービス業などの場合を除く)
任意適用事業所 強制適用事業所以外の事業所で、従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けた場合

派遣会社を含む一般的な法人の場合は、強制適用事業所として認定されます。ただし、法人で働いているすべての人が厚生年金の加入対象ではありません。「被保険者」側の加入条件については、次項をご確認ください。

なお、個人事業主であっても従業員が常時5人以上いる事業所の場合は、被保険者に該当する従業員の厚生年金加入が義務づけられています。

また、強制適用事業所に該当しなくても、従業員の同意と厚生労働大臣の認可があれば厚生年金への加入は認められます。

 

【被保険者】厚生年金の加入条件

次に、厚生年金の「被保険者」側の条件です。

  • 厚生年金適用事業所に常時的に使用される70歳未満の方
  • 1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で、同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である方

上記に該当する派遣社員は、雇用形態や国籍、性別、年金受給の有無等に関わらず、厚生年金への加入が必須となります。

また、通常の労働者の1週間の所定労働時間または1月の所定労働日数が4分の3未満であっても、下記の条件をすべて満たした場合は、厚生年金への加入が義務付けられます。

  • 週の所定労働時間が20時間以上あること
  • 賃金の月額が8.8万円以上(年収106万円以上)であること
  • 学生でないこと

これらの条件を満たす派遣社員は厚生年金に加入することになりますが、派遣社員の場合は契約期間も関係します。

厚生年金保険法第12条により、雇用期間が2ヶ月を超える見込みがない(契約更新がない)場合においては、厚生年金への加入義務は発生しないとされています。そのため、2ヶ月以内で契約が終了する短期派遣の場合は、厚生年金には加入できません。

 

厚生年金の保険料の支払いは派遣会社と折半

先述のとおり、厚生年金の保険料の支払いは雇用主である派遣会社との折半になります。常駐する派遣先企業との折半ではありません。

そもそも厚生年金をはじめとする社会保険料は、派遣先企業が支払う派遣料金のなかに含まれていると見なされています。派遣先企業が厚生年金を含む社会保険料の費用を別途負担することはない、という構造です。

 

派遣社員の厚生年金の受給額

厚生年金保険に加入していた人が受給できる厚生年金には次の3つの種類があり、計算方法はそれぞれ異なります。

厚生年金の種類 支給要件 計算方法
老齢厚生年金 65歳から受給できる年金 報酬比例部分+経過的加算+ 加給年金
障害厚生年金 被保険者が病気やケガなどによる障害を負った際に支給される 1級:報酬比例部分×1.25+配偶者の加給年金額(228,700円)
2級:報酬比例部分+配偶者の加給年金額(228,700円)
3級:報酬比例部分
遺族厚生年金 被保険者が亡くなった際に遺族が受け取れる 老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額

上記のうち、老齢厚生年金を例に計算してみましょう。

たとえば25歳の派遣社員で平均報酬標準月額が20万円、厚生年金保険には平成30年11月に加入した場合、「(20万円×5.481/1,000×60月)+0+0=65,772円」となります。

なお、この場合の計算は比較的簡単ですが、保険加入期間が平成15年3月を跨ぐ場合や被保険期間が20年以上ある場合など、被保険者の加入時の条件によって計算方法が異なります。

各パターンを加味した複雑な計算が求められるため、年金受給額の目安を知りたい場合は、条件を入力するだけで見込額を試算できるねんきんネットなどを活用してください。

 

厚生年金と国民年金の違い

ここまで見てきた厚生年金のほか、公的年金制度には「国民年金」も整備されています。

  • 国民年金:日本国内に居住する20歳以上60歳未満に加入義務がある年金制度。
  • 厚生年金:適用事業所に勤務する70歳未満の会社員・公務員、もしくは一定の条件を満たしたアルバイト・パート労働者が加入する年金制度

画像引用元:日本の公的年金は「2階建て」|厚生労働省

公的年金の仕組みは、上の図のように建物の構造にしばしば例えられます。国民年金が1階部分、国民年金に上乗せする形の厚生年金を2階部分とする、いわゆる「2階建て」の構造です。

なお、厚生年金に加入した分、月々の保険料の支払額は増すことになります。しかし、国民年金に上乗せされた年金を受給できるようになるため、長期的にはメリットを得られる制度設計です。

 

厚生年金と国民年金の受給額の差

なお、厚生労働省が公表している「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の加入者と国民年金のみの加入者における平均受給月額は次のようになります。

  • 厚生年金加入者:143,965円
  • 国民年金のみ加入者:56,368円

保険料の支払額によって異なるため一概にはいえませんが、厚生年金加入者の年金受給額は、国民年金のみの加入者と比較して2〜3倍ほどになるとされています。

 

厚生年金に加入したくない場合はどうすべきか

年金受給額のギャップを鑑みると、厚生年金への加入メリットは少なくないといえますが、懸念されるのが月々の保険料支払い額が増え、手取りが減少する点です。こうした観点から、「厚生年金に加入したくない」と考える人もいるでしょう。

その場合は、前述した加入条件を満たさない働き方を選ぶことで、厚生年金への加入を免れられます。たとえば年収を一定額以下に抑え、「扶養内で働く」場合などです。

 

扶養内で働いた方が得かどうか

ただし、扶養内で働いた方が得になるかどうかは、あくまでも家計の状況によるものです。

社会保険に関していえば、年収が130万円を超えた場合は扶養の適用外になります。そのため、年収130万円以内であっても家計に余裕がある場合は、扶養内で働いた方が得となるケースが多いでしょう。

 

扶養内で働くことをおすすめする人

社会保険における扶養は、年収が130万円を超えると適用外となります。そのため、130万円以上の収入がなくても家計に余裕がある場合は、扶養内で働く判断も検討されます。

ただし、扶養内で働く場合は、いわゆる「年収の壁」によって税制や社会保険における控除が違ってくる点も留意しておく必要があります。

年収103万円以上 所得税・住民税の配偶者控除が受けられなくなる
年収106万円以上 勤務先の健康保険・厚生年金保険への加入が必要
※従業員101人以上の会社に勤務している場合
年収130万円以上 すべての社会保険の扶養から外れ、国民年金保険料や国民健康保険料の支払い義務が生じる
※従業員100人以上の会社に勤務している場合
年収150万円以上 年収150万円以上 配偶者特別控除が段階的に減っていく

上記のように、年収によって受けられる控除は大きく異なります。どのラインの年収であれば家計的にメリットが大きくなるのか、シミュレーションのうえで働く条件を設定しなくてはいけません。

 

扶養内で働くことをおすすめできない人

保険料や税金を支払ってでも、世帯年収が上げることで家計の負担を軽くしたい考える場合は、扶養を外れて働くのがおすすめです。

この場合はできるだけ給料の高い職場で長時間勤務することで、保険料や税金の負担が発生しても収入が増えるメリットが大きくなります。

 

まとめ
  • 派遣社員も正社員と同様に、厚生年金に加入できる
  • ただし、「1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で、同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である」などの条件を満たす必要がある
  • 厳密にいうなら「条件を満たした場合は、加入の義務が発生する」と解釈され、加入条件を満たした場合は強制的に厚生年金に加入することになる
  • 厚生年金の保険料の支払いは派遣会社と折半する
  • 厚生年金に加入したくない場合は、加入条件を満たさない働き方を選ぶとよい

 

 

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