ITアーキテクトとは|仕事内容と必要なスキル・年収などをわかりやすく解説
DXが進むビジネスシーンで、その中核を担う存在として注目を集めている職種が「ITアーキテクト」です。耳慣れない言葉かもしれませんが、「設計者」「建築家」といった意味を持つアーキテクトの文字通り、ITアーキテクトはIT分野の設計を担う人材を指します。
本記事では、DX推進の重要なキーマンとなるITアーキテクトについて、企業における役割や仕事内容、必要なスキルや知識、資格などを紹介します。ITアーキテクトを目指すにあたっての判断材料としてお役立てください。
Contents
ITアーキテクトとは
アーキテクトとは、「建築家」「設計者」などの意味を持ちます。そのアーキテクトの頭にITがつく「ITアーキテクト」とは、わかりやすくいうと企業の目的に最適なWebシステムの設計図を作り、開発をリードする人材です。
主にシステム開発にまつわる業務全般を引き受けるSIer(エスアイヤー)や課題解決をサポートするコンサルティングファームなどに所属したり、自社企業のシステム部門に所属したりと、企業の課題解決に向けて活動しています。
企業におけるITアーキテクトの役割
日々多くのシステムが開発されていますが、最新のシステムが企業の課題を解決してくれるとは限りません。大切なのは各企業において最適なシステムを取り入れることであり、そのシステム基盤を設計・開発・実装するのがITアーキテクトの役割です。
ITアーキテクトは企業の課題解決に直結する職務に関わるため、さまざまなITの専門職と比較して「経営視点」が強く問われるポジションです。幅広い知識やスキルが求められる大変な仕事ではありますが、やりがいの大きな仕事でもあります。
DX人材として需要があるITアーキテクト
ITアーキテクトは情報処理推進機構(IPA)が「DXに対応する人材」と定義する7つの職種にも含まれ、需要が増している人材です。高い需要の背景には、以下の2つの理由も挙げられます。
- IT技術の複雑化により、事業への導入の難易度が高まっている
- 働き方の多様化により、デジタル化の需要が高まっている
昨今、対応が急がれているDX推進の動きは今後ますます加速していくと見られますが、その一方でIT技術の複雑化により導入に戸惑う企業の声も聞かれています。既存のIT人材では対応できない領域も多くあるため、経営視点を携えたITアーキテクトの需要が高まっているのです。
ITアーキテクトの仕事内容
ITアーキテクトは実際にどのような仕事をしているのか、具体的に見ていきましょう。
- 要件定義などの検討・提案
- システムの方向性・仕組みの提案
- 運用・保守
ITアーキテクトの仕事は、企業の課題に対して解決策を提供できるシステムの設計・開発・実装です。要件定義から運用保守までをカバーする、リーダーとしての役割を担います。
システムアーキテクトやITコンサルタントと職務内容が重複する部分があるため混同されがちですが、それぞれの特徴は異なります。個別の違いを次項で紹介します。
ITアーキテクトとシステムアーキテクトの違い
ITアーキテクトの類似職種としてよく名前が挙がる職業に「システムアーキテクト」があります。両者は「自社企業やクライアント企業が思い描いているビジネスモデルに合わせたシステム設計・開発を行う」という点で共通点がありますが、ITアーキテクトが「経営・ビジネス」に主眼を置くのに対して、システムアーキテクトは「システム」に重きを置くといった点に違いがあります。
ITアーキテクトとITコンサルタントの違い
同じくITアーキテクトの類似職種として挙げられることが多いITコンサルタントは、クライアントにヒアリングを行い、内容をもとに最適なIT戦略の提案やシステムの導入を支援する役割を担います。
ITシステムを導入する際には、プロジェクトマネージャーやITアーキテクトと意思疎通を経てクライアントに提案し、提案内容が受理されれば、ITアーキテクトに設計・構築を依頼するステップを踏みます。そのため、ITコンサルタントはITアーキテクトの前段階のフェーズを担うケースが多い職種と位置付けられます。
ITアーキテクトの3つの専門分野
経済産業省が定めるITSS(ITスキル標準)では、ITアーキテクトは下記の3つの専門分野を担うとされています。
- アプリケーションアーキテクチャ設計
- インテグレーションアーキテクチャ設計
- インフラストラクチャアーキテクチャ設計
それぞれの分野について、個別に説明していきます。
アプリケーションアーキテクチャ設計
ITシステム内のアプリケーションのアーキテクチャ(設計方法、システム構造など)に特化した分野です。ユーザビリティを考慮しつつ、必要な要件の定義や業務処理を行うための機能をアプリケーション設計に反映させる役割を担います。
また、その実現可能性の評価やアプリケーション開発におけるルールの標準化なども行います。
インテグレーションアーキテクチャ設計
企業内や企業間で利用している、異なるシステムの連携・統合を実現するための設計を行う分野です。システム間に通底する標準を定め、企業間・部門間でのシステムの統一性を構築する役割を担います。
また、企業間や部門間での制約や利害関係をはじめ、将来的な環境変化や再利用においても対応できるように、フレームの構造や相互運用性を考慮したアーキテクチャを設計することが求められる分野でもあります。
インフラストラクチャアーキテクチャ設計
システムやアプリケーションのセキュリティやプラットフォームなどを中心とした、システム基盤の設計に特化した分野です。信頼性や保守性など非機能要件の定義や設計についての実現可能性の評価を行います。
この分野にはネットワークやプラットフォーム、セキュリティ、システム運用管理なども含まれます。
ITアーキテクトに必要なスキル・知識
ITアーキテクトは、ITに関する総合的な技術知識をはじめ、経営に関しても幅広い知識を有することが前提となる職種です。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提唱している「ITスキル標準V3 2011」によると、ITアーキテクトに求められるスキル・知識は下記のとおりです。
スキル・知識 | 概要 |
---|---|
アーキテクチャ設計 | 業務効率化などの経営課題を解決するシステム設計や要件定義を行う |
設計技法 | 案件に応じたモデリングを選択して、設計に取り入れる |
標準化と再利用 | 開発手法やルールの標準化と既存資産の再利用を検証する |
コンサルティング技法の活用 | 分析ツールなどを理解し、案件に応じて適切に活用できる |
知的資産管理と活用 | 企業内・部署内にある独自のノウハウの管理と状況に応じて活用する |
テクノロジ | 最新のテクノロジの把握と、案件に応じた活用 |
インダストリ(ビジネス) | 関連業界の動向を把握する |
プロジェクトマネジメント | 計画の立案、要員・資金の確保や管理、プロジェクトを最適な進行状況に保つ |
リーダーシップ | 異なる立場のプロジェクトメンバーをまとめる |
コミュニケーション | チームメンバーやクライアントとの円滑な意思疎通を図る |
ネゴシエーション | クライアントや経営陣との合意形成を図る |
これらのスキル・知識は独学で身につけられるものではありません。ほとんどの場合、プロジェクトに参画して実践や経験を積むなかで、身に付けていくことになります。
ITアーキテクトに必要な資格
ITアーキテクトになるために特定の資格は必要とされませんが、知識やスキルを得るために下記のような資格を取得するのは有効なアプローチです。
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システムアーキテクト試験(SA)
国家資格の「情報処理技術者試験」の試験区分の一つでもあるシステムアーキテクト試験では、アーキテクチャの設計・開発に関するスキルを身に付けられます。合格率は毎年10%前後に留まる難関資格です。 -
プロジェクトマネージャ試験(PM)
IPA(情報処理推進機構)が認定している国家資格です。資格の勉強を通して、品質・コスト・納期管理や計画の立案、要員・資源確保など、プロジェクトマネージャーに必要な知識を幅広く学べます。
ITアーキテクトの年収
ITアーキテクトの平均年収は780万円ほどと、高水準で推移しています。企業によって年収には幅がありますが、低くても450万円から、一方で1,500万円で求人を出している企業も見られます。ITエンジニアの平均年収は450万円ほどとなるため、ITアーキテクトの年収は他のIT関連職と比較しても群を抜いて高い傾向です。
※データ取得・引用元:転職支援サイトDodaからの調査(2022年4月)
今後もDX推進のアクションは加速していきます。ITアーキテクトは引き続き高年収が期待される職種です。ITの専門知識はもちろん、マネジメント力や経営面といった幅広い知識を求められるため簡単に勝ち取れるポジションではありませんが、DX推進のキーマンとしての役割は、待遇面はもちろん高いレベルでのやりがいも得られるでしょう。
- ITアーキテクトは、企業の目的に最適なWebシステムの設計図を作り、開発をリードする人材
- さまざまなITの専門職と比較して「経営視点」が強く問われ、幅広い知識やスキルが求められる
- IPAが「DXに対応する人材」と定義する7つの職種にも含まれるように、急激に需要が増している
- 「アプリケーションアーキテクチャ設計」「インテグレーションアーキテクチャ設計」「インフラストラクチャアーキテクチャ設計」の3つの専門分野を担う
- 平均年収は780万円ほどと、他のIT関連職と比較しても群を抜いて高い水準