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核融合発電のメリットとデメリット・実用化への現状と課題に挑む日本企業たち

機電派遣コラム

化石資源に頼らないエネルギーとして実用化が切望される核融合発電。2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、太陽のような無限のエネルギーを地球上で実現させようとする研究は日本企業でも進んでおり、不可能を可能とすべく、レーザー核融合発電の開発・研究機関も含め、日々努力を重ねています。

核融合発電とはどういうものか、いま置かれている現状や、研究を重ねる企業が直面している課題について説明します。

核融合発電の仕組み・燃料とは

核融合発電は、重水素(デュタリウム)と三重水素(トリチウム)の軽い水素原子同士を高温・高圧の状態にし、強力な磁場に閉じ込めて衝突させ核融合反応を起こし、膨大なエネルギーとして放出させる仕組みです。このエネルギーを熱エネルギーとして回収し、発電などに利用します。

核融合反応を起こすには、「高温」と「高圧」の条件が不可欠です。この状態を維持するためには、大きな技術的課題が残されており、実用化には至っていない現状です。

 

原子力発電と比較した際の違い

核融合発電と原子力発電では、エネルギーを生み出す機序が異なります。

  • 原子力発電:核分裂によってエネルギーを生み出します
  • 核融合発電:核融合でエネルギーを生み出します

ウランやプルトニウムを燃料に使用し、軽い原子核に「分裂」させてエネルギーを放出する原子力発電所(原発)に対し、核融合発電では重水素やトリチウム(三重水素)といった軽い原子核を高温・高圧の環境で「融合」させ、膨大なエネルギーを生み出します。

また、核融合発電の燃料は水や重水から生成できるため、ウランなど希少燃料が必要となる原子力発電と比較して、資源の枯渇など供給上の問題がクリアされています。

  核融合発電 原子力発電
燃料 水素同士の軽い原子核を使用 ウランやプルトニウムなど、重い原子核を使用
資源供給 豊富に存在する水や重水から生成できる ウランなど希少燃料が必要
プロセス 核融合反応を利用 核分裂反応を利用

 

核融合発電の安全性と危険性

「核」の言葉のイメージから誤解されがちですが、核融合発電は原子力発電のようにウランやプルトニウムといった高レベル放射性廃棄物を生み出す放射性物質を燃料としていません。

核融合の燃料は水素で、副産物として生成されるのはヘリウムです。つまり、まったくクリーンなエネルギーであり、原子炉がメルトダウンするような危険性はありません。

核融合発電の初期はトリチウムという放射性物質を扱うため100%安全とはいきませんが、核融合発電が持つリスクは原子力発電の1000分の1程度です。また、事故に対するリスクも原子力発電と比較して大幅に軽減されます。

  核融合発電 原子力発電
放射性廃棄物 廃棄物の生成が少なく、生成物の半減期も短い 長寿命の放射性廃棄物が発生するため、廃棄物の処理や管理が課題
事故時のリスク 異常事象が起こった場合も自然に収束するため、制御不能になるリスクは微小 異常事象や事故時には重大な安全リスクを伴う
事故時の影響範囲 放射能漏れの心配はなく、周辺環境への影響も限定的 放射能漏れのリスクがあり、広範囲にわたる地域や環境への影響が懸念される

 

核融合発電のメリット・デメリット

前述の通り、核融合発電は原子力発電とは異なる仕組みでエネルギーを生み出します。実用化にあたり、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

 

核融合発電のメリットとは?

前述した安全性の高さは、核融合発電の大きなメリットです。原子力発電に懸念されているような、爆発・暴走・連鎖反応・再臨界・メルトダウンのリスクがありません。原子炉と違い、核融合炉は超高温度・高真空と条件が厳しく、少しのトラブルで核融合反応が消失してしまうため、暴走できないのです。

また、エネルギー源である重水素と三重水素は、水から半永久的に取得できるため、資源枯渇のリスクも大幅に下がります。

安定・安全な電気供給ができるため、火力・原子力発電に代わる未来エネルギーの可能性を秘めています。

 

核融合発電のデメリットとは?

核融合発電は現時点で、実用化できていません。見通しは立っているものの、数年で課題をクリアできるような段階ではないのです。

安全性は原子力発電よりも優れていますが、放射能がまったくでないわけではないため、実際に稼動するためには、地域の反対や建設地域の問題も無視できないでしょう。

また、核融合発電は新たな分野の最新科学技術です。技術開発・研究には、莫大な費用がかかることも大きなデメリットです。

 

核融合発電の実用化は不可能ではない

核融合発電の実用化は、決して不可能ではありません。しかし、核融合発電の実現には多くの技術的課題が残されています。

  • プラズマの制御
  • 高温・高密度環境の維持
  • エネルギー回収効率の向上

これらの課題の克服には、長期間の研究開発を要します。また、核融合発電に使用する材料の耐久性など、安全面も重要な要素です。

現時点では、核融合発電の実現までには数十年以上の時間がかかると見られています。しかし、技術革新と国際的な研究協力を経て、将来的には核融合発電が実用化され、クリーンで持続可能なエネルギー供給源となると見込まれています。

 

核融合発電実用化へ乗り越えるべき課題

積極的な研究開発が進む核融合発電分野ですが、まだまだクリアすべき課題は多く見られます。

  • 高温に連続して何年も耐えられる安全性の高い炉壁
  • 核融合発電単価・コスト
  • 運用保守と人為的ミス・テロの懸念

 

高温に連続して何年も耐えられる安全性の高い炉壁

解決が不可欠な課題がこの「炉壁」の開発です。

核融合を起こすために必要な高熱は、太陽の中心温度である1600万度をはるかに上回るものです。この驚異的な高熱に長期的に耐久する性能を有する炉壁は、電力の安定供給に欠かせません。しかし、生産にはまだ十分なめどが立っておらず、引き続きの研究開発が不可欠です。

 

核融合発電単価・コスト

もうひとつ見逃せないのが、コストの問題です。

技術革新と実用はイコールではありません。すでに技術開発が進んでいる電気自動車が、ガソリン車の代替となっていない理由はさまざまありますが、その大きな理由として車体価格などのコスト面を無視することは出来ないでしょう。核融合発電に置いてもそれは同様で、発電単価・コストの問題をクリアできてこそ実用化が進みます。

なお自動車業界においては、再生エネルギーによって生まれた過剰な電力を蓄積すべく、EV車を「蓄電池」として活用し、電力会社の電力系統に接続し相互に利用する技術であるV2G(Vehicle-to-Grid)も注目を集めています。

 

運用保守と人為的ミス・テロの懸念

核融合炉は「小さな太陽」と称されるように莫大なエネルギーを放出します。そのため、テロなどの脅威にさらされる危険性も考えなければなりません。人為的な誤操作に起因する事故の発生も懸念されます。

 

日本国内の核融合発電の現状・研究に携わる企業たち

核融合発電の実現は、ITER(イーター)計画として実施されるカーボンニュートラルを念頭に置いた世界的なプロジェクトです。このITER計画においては日本も重要な分野を担っており、官民ともに積極的なアクションが実行されています。

日本国内における取り組みと現在地を確認していきましょう。

  • カーボンニュートラル社会に実現に向けた核融合の位置付け
  • ITER(国際熱核融合実験炉)計画と東芝の研究開発
  • 1960年代から核融合開発に携わる三菱重工
  • 注目を集めるスタートアップ・京都フュージョニアリング

関連リンク:文部科学省研究開発局「核融合研究開発の現状」

 

カーボンニュートラル社会に実現に向けた核融合の位置付け

まず前提として、核融合発電は産業として今後の成長が大いに期待される重要分野であること、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて追及すべき分野であることが、内閣官房「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において言及されています。

核融合発電の現状と課題、今後の取り組みについては以下の点が指摘・記載されています。

  • 核融合炉は暴走リスクがなく、安全性が高い技術と位置付けられている
  • フランスの核融合実験炉への機器の納入など、日本企業による主要機器の製作は着実に進行している
  • 国内でも核融合ベンチャー企業が出てきつつあるが、民間における投資は他国と比べて少ない現状がある
  • ITER 計画について、2025年の運転開始、2035年の核融合運転開始を目指す

この「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」でも触れられている「ITER計画」は、日本の核融合発電における重要なプロジェクトです。具体的なアクションを深掘りしていきましょう。

参照:内閣官房「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

 

ITER(国際熱核融合実験炉)計画と東芝の研究開発

ITER(イーター:国際熱核融合実験炉)計画は、核融合実験炉の実現を目指す国際プロジェクトです。2025年の運転開始をKPIとして、日本や欧米、中国やロシア・インドなど主要国を中心に進められています。

日本でもITER計画に準拠するアクションが進行しており、「量子科学技術研究開発機構」を国内機関に指定。以下のITER主要本体機器の製作分担を請け負っています。

  • 超伝導トロイダル磁場コイル
  • 超伝導中心ソレノイド導体
  • 高周波加熱装置
  • 中性粒子入射加熱装置 など

茨城県那珂市に建設された実験装置「JT-60SA」は2020年に完成。2022年から本格稼働する見通しとなっています。

このJT-60SAにおける研究に関わっている東芝は核融合実験・重水素実験に必要な臨海プラズマ試験装置「JT-60」を納入。日本の核融合発電の中核を担う企業です。

 

1960年代から核融合開発に携わる三菱重工

東芝のほか三菱重工も核融合炉の開発にて大きな存在感を見せている企業です。三菱重工の取り組みの歴史は長く、1960年代から核融合開発に携わっています。現在では下記のような核融合炉の主幹部を担います。

  • 高性能トカマク開発試験装置
  • 核融合燃料ガス精製システム

 

注目を集めるスタートアップ・京都フュージョニアリング

他国と比較して民間投資は少ないとされていますが、日本でも注目のベンチャー企業が出てきています。2019年に創立された、京都大学発の「京都フュージョニアリング」もそのひとつで、2021年にはVCなどから1億円以上の資金を調達。今後の成長が大いに期待されている企業です。

核融合炉の仕組みは大きく2つに大別されます。

  • 核融合反応を起こす過程
  • 発生した熱を取り出す過程

京都フュージョニアリングは、後者の「発生した熱を取り出す過程」にフォーカスし、熱を取り出す装置や不純物を排気する装置を提供。高い独自技術を有し、「核融合反応を起こす過程」からの受注が期待できると、いま注目を集めているスタートアップ企業です。

 

核融合発電の実用化はいつ?

文部科学省の委員会では、日本で核融合発電の「原型炉」を建設するかどうかについて、「2030年代に政府に判断を求める」という基本方針案を打ち出しています。

核融合炉を実用化するためには、「実験炉」「原型炉」「実証炉」を段階的に建設して研究を行い、その成果を踏まえて、ようやく発電を行う「商用炉」を建設することになります。

現時点の計画では2050年代に実現できる見通しです。

一方、さらなる技術革新から、実用化の時期が早まる可能性も期待されています。

米国のエネルギー企業TAEは、炉の温度上昇によって課題となる高温なプラズマの長時間閉じ込めの新たなアプローチを発表。2030年までに、商業核融合発電所の適合条件にまでスケールできる点を実証しています。

夢のエネルギーである核融合発電。技術革新によって実用化のときは近づいてきているのかもしれません。

 

まとめ

核融合発電は、量子コンピューターとともに夢の科学・技術として注目されて長く経ちますが、いざ完成し運用すれば世界のエネルギー事情が大きく変わるかもしれません。

越えなければならない課題があるにせよ、核融合開発には多くの研究者や従業員の夢が詰まっております。

今後の核融合研究に大いに期待したいと思います。

 

 

 

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