IT社会で働くための第一歩。ITパスポートの難易度と勉強法について
いまや社会で働く上で不可欠となったIT力について、一定レベルのスキルの持ち主であることを証明する ── 。
それが、国家試験である「ITパスポート」です。
試験はITの基礎知識からマネジメントスキルまで総合的な内容で構成されており、企業が採用活動や人材育成の一環として取り入れる、ステップアップを目指す会社員が一定のITスキルがあることの証明に利用する、またエンジニア職の志望者が専門スキル取得の第一歩として受験するなど、さまざまな形で活用されています。
このITパスポートはどんな内容の試験で、合格するにはどのようなステップが必要なのでしょうか。
メリットや試験の概要、活用事例などをご紹介します。
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ITパスポートの概要
社会人が知っておくべきITの知識を幅広く問う
2009年にスタートした国家試験「ITパスポート」は、情報処理技術者試験の一試験区分。
「情報処理の促進に関する法律」に基づく形で、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)により通年実施されています。
ITパスポートの公式サイトでは
「ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべき、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験」
と定義されており、開始以来の応募者数は2018年6月末の時点でおよそ約89万人に達しました。
ITパスポートの特徴は、ITに関する知識量を増やすことだけが目的ではなく、「ITを実際のビジネスシーンでどう効果的に活用するか」を重視している点です。
そのため、ITの技術面についてはもちろん、ITをどう管理するか、経営へどう生かすかといった部分まで幅広い知識が問われます。
実際に受験者層を見てみると、社会人が6割弱、学生が4割強で、社会人の場合はソフトウェアや情報処理、コンピュータ関連などのIT関連企業が約4割、それ以外の企業が6割程度です(いずれも18年度のデータより)。
また、年齢も10歳以下から75歳以上まで幅広く分布。
決して限られた年齢層や業種を対象としたものではないことがうかがえます。
これから実社会に踏み出す人、IT力を向上させたいビジネスパーソン、エンジニアへの転身を目指す社会人など、「誰もがチャレンジする価値のある試験」であることが分かるでしょう。
ITパスポートを取得するメリット
基本的なIT知識の習得を証明。エンジニアとしての第一歩にも
ITパスポートを取得するメリットについて、公式サイトでは
「ITを正しく理解し、業務に効果的にITを利活用することのできる“IT力”が身につきます」
と語っています。
昨今、社会生活のあらゆるシーンがITと深く結びつくようになりました。
仕事や生活の基盤をなすITを活用できる能力は、技術職に限らず、営業職や事務職など、多様な職種に求められているといえるでしょう。
しかも、情報モラルや個人情報保護の徹底など、企業のコンプライアンス(法令遵守)に対して厳しい目が向けられている現代社会では、ITを“正しく”理解して使うことが不可欠。
働く上で求められる「最低限のITスキル」の基準は上がり続けています。
ITパスポートでは、IT分野の技術や知識は言うに及ばず、経営戦略、マーケティング、財務、法務などの問題も出題されます。
つまり合格に向けた学習を行ううちに、これらの知識をバランスよく吸収できるわけで、現に社員教育に活用している企業も出てきています。
また、ITパスポート試験の出題範囲に含まれるSWOT分析やバランス・スコアカードなどの経営戦略、会計・財務の知識は、企業が置かれている現状や課題を客観的に認識し、ITを取り入れた業務改善を進めていく上で役に立つはずです。
こうした力を身に付けていることを国が証明してくれるのが、ITパスポートです。
新卒採用活動において、エントリーシートや面接でITパスポートの取得の有無やスコアを重視する企業もあるなど、試験の社会的な信用度は高まりつつあると言えます。
ITパスポートは、あくまで全社会人を対象とした、国の「情報処理技術者試験」のエントリーレベルの試験。
ですから就職活動でエンジニアに求められるスキルがあることを証明するには、情報処理技術者を対象に基本的知識・技能を問う「基本情報技術者試験(FE)」や、応用的知識・技能を問う「応用情報技術者試験(AP)」などの取得が別途必要になります。
ただし、異業種などからエンジニアを志望する人にとって、ITの基礎的な知識をまとめたITパスポートは、「高度IT人材」であるエンジニアとしての必須知識を身につける学習の第一歩として役立てられるのも事実。
これは大きなポイントです。
出題の範囲と取得の難易度は?
試験はCBT方式。「600点以上」が合格ライン
実際にどんな試験を受けることになるのか、その内容を見ていきましょう。
試験時間は120分、出題数は100問です。
出題形式はすべて「四肢択一」(4つの選択肢から1つの解答を選ぶ)で配点は1000点満点。
試験はコンピュータに問題が表示され、マウスやキーボードで解答を入力する「CBT(Computer Based Testing)」方式で実施されます。
出題範囲は
- 企業と法務、経営戦略、システム戦略などに関する「ストラテジ系」が35問程度
- 開発技術、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメントなどシステム開発・活用を管理するための知識を問う「マネジメント系」が20問程度
- 基礎理論、コンピュータシステム、技術要素などの「テクノロジ系」が45問程度
テクノロジ系に関しては、情報システムやネットワーク、データベース構築をはじめとするITの基礎的な知識に加え、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどの先端的な技術の知識、アジャイル開発などソフトウェア開発のトレンドなども範囲に入っています。
合格基準は、総合評価点1000点中のうち600点以上取得すること。
その上で、ストラテジ系、マネジメント系、テクノロジ系でそれぞれ各項目の満点の3割を得点している必要があります。
近年の合格率は50%前後で推移しています。
受験に必要な要件などは設けられておらず、理系や文系、技術系や事務系、社会人や学生を問わず受験できます。
また、一度合格を果たした人でもチャレンジ可能なため、自分の苦手分野を分析し、スキルのアップデートを図るためのツールとしても活用できます。
ITパスポートに向けた学習法
シラバスを参照しながら、豊富な学習手段から適したものを選ぶ
ITパスポート試験はエントリーレベルの試験でもあり、試験情報も広く公開され、市販の問題集や無料の学習サイトなども充実しているため、独学でも十分に合格を狙える試験と言って良いでしょう。
ウェブ上などでは、ごく初歩の知識しかない場合でも、40時間程度の学習で取得できたといった体験談も発表されています。
公式ウェブサイトでは、09年度春期分以降の問題と解答のPDFファイルを公開。
試験時に操作する画面を体験できる「CBT疑似体験ソフトウェア」(Windows版のみ)をダウンロードすれば、12年度以降の問題を実際に解き、正誤や正答数を確認することもできます。
受験者にとって学習の指針となるのは、公式サイトにも掲載されているITパスポート試験の「シラバス」です。
これは試験の出題範囲を詳細に示し、合格に要する知識や技能を整理した資料。
ストラテジ系、マネジメント系、テクノロジ系それぞれの大項目、中項目における学習の目標や内容を把握することができます。
試験では新たな技術の登場なども踏まえて必要な知識を問うため、出題範囲は都度見直しを行っており、18年8月にも、IPAがディープラーニングやシェアリングエコノミーなどの内容を追加することを発表しています。
学習を始める前に最新版のシラバスをしっかり確認しておくことが必要です。
独学をサポートする参考書は、教科書的なもの、ストーリー仕立てのものなどさまざまなタイプが出版されています。
内容を確認し、自分のレベルに合った、興味を持てるものを選ぶようにしましょう。
ただし、最新の出題範囲や近年の出題傾向への対応という意味から、できるだけ新しい情報が得られるものを選ぶのがベターです。
参考書で全体の概要をつかんだ上で、過去問を確認して出題傾向を押さえ、自分の得意・不得意な領域を把握し、勉強を進めていくと良いでしょう。
合格のためのノウハウを発信しているウェブサイトや、空き時間などを有効に活用できる試験対策アプリなどを活用するのもおすすめです。
サイトでは「ITパスポート試験ドットコム」などがよく知られています。
また、独学が難しいと感じる人には、通信教育やスクールなどもあります。
まずは継続的な勉強、情報収集を習慣づけることがITパスポート試験合格への近道。
復習で知識のベースをしっかりと固めつつ、ITやビジネス関連の最新の動向をチエックしておくことは欠かせません。
勉強しやすい環境を整えて、社会から求められるIT人材を目指しましょう。