エネルギーハーベスティングとは?IoTに必要な技術の使い方や課題
「エネルギーハーベスティング」が、今注目を集めています。
人の歩く振動や体温、室内照明の光など、ごくわずかなエネルギーを集めて電力にし有効活用しようというコンセプトを持ちます。
エネルギーハーベスティングは、地球に優しく、配線や電池交換の必要がないエネルギー活用技術です。
この技術はさまざまな用途で活用されており、これからも幅広い分野で応用されることが期待されています。
今回は、エネルギーハーベスティング技術について解説します。
Contents [hide]
エネルギーハーベスティングとは
エネルギーハーベスティング(エナジーハーベスティング)とは、身近にある太陽光や照明光のような光、さらには振動や熱などから微小なエネルギーを収穫(=ハーベスト)して電力に変換し、活用することを目的とする技術です。
「環境発電技術」とも呼ばれます。
最大の特長は「配線・一次電池不要」
エネルギーハーベスティング技術の最大の特徴は、電源への配線や一次電池(使い切り電池)が不要という点です。
電子機器を稼働させるためには電力が必要です。
今までの技術では、電力の供給のために一次電池を内蔵する、もしくは、ケーブルで電源とつなぐ必要がありました。
一次電池を内蔵すれば配線の必要はなくなりますが、消耗品のため定期的に交換しなければなりません。
しかし、エネルギーハーベスティング技術を利用すれば、電子機器自体が集めたエネルギーを二次電池(充電式電池・蓄電池)へ蓄積して発電するので、ケーブルと電源をつないだり、電池交換などのメンテナンスをしたりする必要がなくなります。
さまざまなエネルギーを利用する
エネルギーハーベスティングの電力源には、主に以下のエネルギーが利用されます。
光エネルギー(光発電)
まずは、光エネルギーです。
光電効果という、物質に光を照射すると電流が流れたり、電子が放出されたりする現象を利用します。
光発電で利用される代表的なエネルギー源は、太陽光です。
光電効果の一種である光起電力効果を利用して、光エネルギーを即時に電力に変換する太陽電池にも、エネルギーハーベスティング技術が活かされています。
熱エネルギー(熱電発電)
次に熱エネルギーです。
ゼーベック効果(温度差が電圧に変換される現象)を利用した熱電変換素子(熱と電力を変換する素子)をもちいて、物体の温度差を電圧に変換して発電します。
たとえば、エンジンやエアコンなどの機械や、ビルの配管などから発生する熱を電気エネルギーに変換するのも、エネルギーハーベスティング技術の一種です。
電磁波エネルギー(電磁波発電)
電磁波エネルギーもエネルギー源として利用可能です。
テレビ・ラジオ・携帯電話・無線LANなどが発する電波のエネルギーをレクテナという装置を使用して、直流電流に変換して発電します。
自然環境に左右されたり、場所や時間によって増減したりすることもなく発電できるエネルギー源といえます。
振動エネルギー(振動力発電)
振動エネルギーもエネルギー源に利用されます。
振動によって発生する圧力を、圧電素子などを介して電力に変換します。
たとえば、人が歩いているときや、車の走行中に発生する振動を電気エネルギーに変換して利用することが可能です。
エネルギーハーベスティング技術の用途例
エネルギーハーベスティング技術はどのような用途で利用されているのでしょうか。
例をいくつかみていきましょう。
太陽電池として活用
エネルギーハーベスティング技術は、すでに1970年代には腕時計や電卓に使用されていました。
以降、技術開発が進み、現在では携帯電話やネットブックなどのモバイル機器に太陽電池を組み込み、主電源としてエネルギーハーベスティング技術が使われている例もあります。
身近な電磁波の活用
テレビやラジオなどの電波から発生させた電力の活用をめざす動きもあります。
レクテナという特殊な装置を使用すると、環境電波を受信し、電力に変換することが可能です。
しかし、現在の環境電波を電力に変換する技術では、ごくわずかな電力しか収集できません。
将来的に以下のようなことが期待されています。
- スマートフォンの充電を自動的におこなう
- 太陽電池が使えない天気の悪い日や夜間でも発電できる
- 電子レンジなどの高周波を利用する機器で、熱として廃棄されていたエネルギーを再活用し、消費電力を削減する
普段の動作で発生する振動エネルギーの活用
人の歩く振動などを電力に変換するエネルギーハーベスティング技術を活用した製品も開発されています。
たとえば、以下のようなものです。
- 2009年度グッドデザイン賞受賞「発電床(R)」を利用したフットライト型避難誘導灯
→ 床に伝わった振動でフットライトが点灯。火事などで電灯が消えた場合でも、煙を避けつつ低い姿勢で避難することができる
- 電源レスイルミネーション
→ 発電床(R)や振り子の振動で発電する発電機を利用してイルミネーションを点灯
- 電池レスリモコン
→ ボタンを押したときの振動で電力が発生し電波を飛ばす。トイレの洗浄ボタンなどに活用されている。
エネルギーハーベスティング技術はIot機器に取り入れるべきもの
昨今、さまざまなモノをインターネットにつなげる、IoT(Internet of Things)システムを導入する動きが広まっています。
IoTシステムを導入するうえで重要なのが、電源の問題です。
もともと電源のない場所への設置を考える場合、電源を確保するためのコストがかかります。
また、IoTシステムで使用するセンサーが膨大な数になる場合、すべてをケーブルでつなぐのは現実的ではありません。
電力をエネルギーハーベスティング技術で得られれば、電源からケーブルを配線する必要はありません。
そのため、IoT機器と電源をケーブルでつなぐ必要のないエネルギーハーベスティング技術は、IoTのさらなる実用化に向けて取り入れるべき技術です。
エネルギーハーベスティング技術の用途
Iotシステムにおけるエネルギーハーベスティング技術の使い道には以下のようなものがあります。
ウェアラブルデバイスへの活用
着用可能なコンピュータである「ウェアラブルデバイス」にも、エネルギーハーベスティング技術が活かせます。
米国のベンチャー企業「MATRIX INDUSTRIES」の開発した腕時計型環境発電デバイス「PowerWatch」は、温度差発電(サーモテクノロジー)技術を取り入れた世界初のスマートウォッチです。
この時計は本体と人間の皮膚表面の温度差で発電します。
そのため充電を必要としません。
また、PowerWatchはスマートウォッチとして「消費カロリー計測」「歩数計」「睡眠量計」の3つの機能を持ちます。
睡眠量計を活用すれば計測中も体温で発電し続けるので、翌朝の充電を心配せずに使用できます。
消費カロリー計測機能は、消費するカロリーから変換された熱をもとに計測するため、正確な数値の算出が可能です。
データ取得が難しい場所での活用
たとえば、危険を伴う工場や、たもとまで行くのが難しい橋脚など、人がなかなか立ち入れない場所にIoTを備えた電子機器を設置して、データを取得したいという場合があるとします。
そこで、電子機器にエネルギーハーベスティング技術を導入して、光エネルギーや熱エネルギー、振動エネルギーなどを得られる状態にします。
そうすれば、故障しない限り半永久的に発電でき、データの取得も可能です。
メンテナンスのために危険な場所へ人員を派遣する必要がなくなるのが利点です。
再生可能エネルギーによる発電関連
再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、波力、地熱など、利用速度以上のスピードで自然界から補充されるエネルギーを指します。
発電のエネルギー資源として、石油などの化石燃料を輸入する必要もないことから、重要な国産エネルギー源として期待されています。
温室効果ガスを排出しないのもメリットです。
また、電力網が整備されていない地域での電力供給に導入しやすい点、災害時や停電時のバックアップ電源として使用可能な点もメリットといえるでしょう。
この再生可能エネルギーで発電する際に、IoTシステムをデータ取得の手段として取り入れるとします。
その場合の電源技術にエネルギーハーベスティングを採用することが考えられています。
たとえば、電源のとりにくい風力発電機のブレード部分のモニタリング、水力発電のメカニカルパーツのセンシングなどです。
間接的にではありますが、再生可能エネルギーによる発電に、エネルギーハーベスティング技術が役立つ可能性があるといってよいでしょう。
エネルギーハーベスティングが抱える課題
エネルギーハーベスティングで生み出せる電力は、現時点では極めて微弱だったり、不安定だったりする場合があります。
もうひとつ、セキュリティ面も考慮しなければいけません。
無数のネットワークに接続されたエネルギーハーベスティングデバイスを逆手にとって、悪意の第三者からDoS(Denial of Service:サービス妨害)を受ける恐れがあります。
その対策として暗号強度を増強しようとすると、どうしても消費電力が増えてしまい、エネルギーハーベスティングでは電力がまかないきれないという問題が発生します。
これらの課題を克服するためには、エネルギーハーベスティングによる発電量の増加と機器の低消費電力化が実現するように、技術を向上させることが不可欠です。
エネルギーハーベスティングに期待される未来
これからエネルギーハーベスティング技術で拡大が予想される市場は、建物内の無線センサーネットワークです。
配線の必要がないセンサーをあらゆる場所に設置して、無線通信ネットワークでつなぎ、データや情報が収集できるようになれば、IoTの活用範囲が広がります。
たとえば、ビーコンなどセンサーの役割も果たすものを介すれば、広い施設の中で、自分がどこにいるかをスマホで把握することも可能です。
センサーにエネルギーハーベスティングの無線技術を取り入れれば、電力コストの削減に加え、電力を供給する配線が不要になるので工事コストも抑えられます。
大規模な商業施設などの建設や改築の際、エネルギーハーベスティング技術を利用したセンサーネットワークの構築は魅力的な選択肢となるでしょう。
エネルギーハーベスティングの市場は今後拡大が予想される
政府が推進する「スマートシティ」の実現には、IoT機器の開発と、エネルギーハーベスティング技術が必須となります。
スマートシティの拡大にはまだまだ課題が多いため、今後、開発にかかわるエンジニアの需要が高まることも予想されます。
英国の調査会社IDTechEx社によると、エネルギーハーベスティング技術の市場は2022年時点で50億ドル以上になると予測されています。
エンジニアを志す人にとって、エネルギーハーベスティング技術の知識を深めることは、最先端の現場で活躍する大きなチャンスにつながるでしょう。
※スマートシティとは・・・先端のITや環境技術を駆使し、街全体で電力の有効活用を図ること。
- エネルギーハーベスティングは、地球に優しく、配線や電池交換の必要がないエネルギー活用技術
- エネルギーハーベスティングの電力源には、光エネルギー、熱エネルギー、電磁波エネルギー、振動エネルギーなどがある
- エネルギーハーベスティング技術の市場は今後拡大が予想される