遠距離通信・省電力「LPWA」とは? IoTに適した無線通信技術の基礎
IoT社会を語るうえで欠かせない「LPWA」という技術をご存知でしょうか。
LPWAはITエンジニアであれば、今のうちにしっかりと理解しておきたいとても有用な技術です。
この記事ではLPWAの基礎情報や、LPWAとIoTの組み合わせで実現するサービスなどを解説します。
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LPWAとは? 基礎情報
IoT向け通信で利用されているLPWAについて、まずは基礎的な部分を説明します。
低消費電力で遠距離通信を実現する
IoTシステムとあわせて言及されることが多い「LPWA」。
LPWAは「Low Power Wide Area」の略称です。
直訳すると「低電力広域」となりますが、実際には「低消費電力での遠距離通信」を意味します。
家庭用の無線LANと比較すると通信速度こそ劣りますが、通信距離がとても長く、消費電力は低いというのが特長です。
5Gは免許型、LPWAは無免許通信が多い
無線通信技術を取りあつかう際には、免許が必要な場合があります。
従来の4Gの100倍にあたる通信速度を実現するといわれる5Gは、無線局免許が必要な通信技術のひとつです。
一方、LPWA規格は無免許通信がほとんどですが、なかにはLTE-Mのように免許が必要な通信規格も存在します。
これは携帯電話(スマートフォン、タブレット等のモバイルデバイス)の通信規格、LTEを活用するセルラーLPWAです。
そのため、LTE-MをもちいてIoTデバイスを利活用したい場合には、IoTプランを提供している通信事業者(通信キャリア)に相談をするとよいでしょう。
IoTの発展に貢献する
LPWAの通信方式は、IoTシステムでの利用に適しています。
なぜ、IoTシステム向けかというと、前述の通り低消費電力かつ遠距離での通信が可能だからです。
IoTシステムはセンサーから取得した情報を、インターネットを通して収集します。
送信するデータは大容量ではなく、消費電力の高いWi-Fiのような高速通信は必要ないため、電池やバッテリーの消耗を抑えることが可能です。
また、商業施設などの広い場所に膨大な数のセンサーを設置するような場合、長距離通信が可能でないと活用が難しくなります。
その点もLPWAを使用することでカバーが可能です。
このように、消費電力を抑えつつセンサーが取得した情報を遠くまで送信したい場合は、LPWA技術が適しています。
代表的なLPWA規格の価格を比較
LPWAにはどのような通信規格があるのでしょうか?
周波数帯 | 免許の要否 | 通信速度(上り) | 通信距離 | |
SIGFOX | 920MHz帯 | 不要 | 100bps | 最大数10km |
LoRaWAN | 920MHz帯 | 不要 | 0.3~50kbps | 数km~数10km |
NB-IoT | LTEと同帯域 | 必要 | 21.25kbps | 最大40km |
このように、一口にLPWAと言っても、周波数帯や免許の要否などでさまざまな違いがあります。
下にそれぞれの通信規格の詳細を解説します。
SIGFOX
SIGFOX(シグフォックス)はフランスの企業が提供しているLPWAの一種で、日本では京セラコミュニケーションシステムがサービスを展開しています。
SIGFOXは2018年3月時点で100万回線が利用されていますが、1番のメリットは年額100円からという低コストで利用できる点です。
※ 通信料金は契約回線数、1日あたりの通信回数によって異なります。
また、伝送距離が比較的長いというメリットもありますが、最大伝送速度がかなり遅いというデメリットもあります。
LoRaWAN
LoRaWAN(ローラワン)は、SIGFOXと同様の周波数帯を使用します。
メリットは、通信速度がSIGFOXよりも速い点。
さらに1回あたりに送信できるデータサイズが、SIGFOXは12バイトなのに対して、LoRaWANは242バイトまで可能だという点です。
また、周波数帯域もSigfoxと比較して広いため、耐ノイズ性があるといえます。
LoRaWANをもちいた通信サービスを提供するセンスウェイによると、通信費は1デバイス当たり月額30円~(初期費用なし)。
200万~300万という大量のデバイスを接続する大口契約の場合は、月額8円という料金設定も可能だとしています。
しかし、通信距離はSIGFOXより短いというデメリットがあります。
NB-IoT
NB-IoT(Narrow Band IoT)がSIGFOXおよびLoRaWANと違うのは、周波数帯がLTEと同じだという点です。
そのため通信速度が格段に速く、通信距離も最大40Kmと段違いの長さです。
NB-IoTはドコモがLPWAプランとして提供しています。
このLPWAプランには、基本料金が月額150円のLPWAプランSSと、基本料金が月額200円のLPWAプランSがあります。
この2つのプランには、無料で提供される通信量に差があり、LPWAプランSSが200KBに対して、LPWAプランSは1,000KBです。
また、無料通信分を超えた場合の通信料もLPWAプランSSが0.5円/KBに対し、LPWAプランSは0.4円/KBと安価になります。
なお、NB-IoTを国内初でサービス化したのはソフトバンクです。
IPアドレスの割り当てをせずともデータ通信が可能なNIDD(Non-IP Data Delivery)技術との組み合わせで、あらたな通信サービスを提供しています。
まだある! 注目のLPWA規格
LPWA規格には、紹介した3種類以外にも以下のような規格があります。
Wi-SUN
Wi-SUN(ワイサン)は、Wireless Smart Utility Networkの略称です。
通信距離は500~1,000mと、前項で紹介した3つの規格よりもかなり短くなります。
一方で通信が安定しているという長所があり、HEMSコントローラとスマートメーター間での通信などに使われています。
※ HEMSとは…電気・ガス・水道の使用量を「見える化」するためのシステム
RPMA
かつてOn-Rampという名称で普及したRPMA(Random Phase Multiple Access)。
通信速度は上りが31kbps、下りが15.6kbpsほど。
デバイスから通信を受け取る基地局のカバー範囲が広大です。
ただし、障害物の多いエリアではその特性が活かせないため、日本では基地局を増やすなどの対策をしなければ実用化には至らないと考えられています。
ELTRES
ソニーが提供するLPWA規格、「ELTRES」は、見通し100km以上の通信可能という大きなメリットがあります。
そのうえ、100km/hでの移動時も通信が可能なため、車など高速移動している物体にも使用可能です。
zeta
zeta(ゼタ)は、ここまでに紹介したLPWA規格とは違って、マルチホップ通信ができるという魅力があります。
マルチポップ通信が可能というのは、中継器をもちいてリレー形式の通信ができるということです。
設置に電源工事などが必要となる基地局を増やさずとも、ネットワークを広げられるのが大きなメリットです。
LPWA通信+IoTで実現するサービス
次にLPWA技術がどのような活用を見込まれているのかをご紹介します。
使い捨てモジュールで封筒開封確認
「開封されると信号が送信される通信モジュールとセンサーを封筒につけておけば、開封を知らせてくれる」というサービスへのLPWA活用が検討されています。
通信モジュールにプリンテッドバッテリー(印刷電池)という薄くて軽い電池を使用することで実現可能となったサービスです。
開封されたかどうかを確認したい重要な書類を送るケースなどで、需要が予測されています。
商品の流通追跡・盗難防止
LPWA技術によって、長寿命のセンサーによる位置特定が可能となるため、商品の管理が容易になります。
商品の位置を追跡するようなケースでは、「充電ができない」「電池が長く持たない」という課題があり、それを解決する技術を開発しないと実現不可能といわれてきました。
しかし、充電をせずとも何年も作動するLPWAデバイスをもちいることによって、それは可能となりました。
流通過程での商品紛失対策や、店舗の倉庫での盗難対策など、商品管理面で大いに活用されるでしょう。
山奥の建設現場のモニタリング
LPWA技術をもちいれば、人を定期的に派遣するのが難しい場所の監視もおこなえます。
人が作業をするのに手間がかかる場所には、山奥の建設現場や海上、池などがあります。
充電の必要がないLPWAの装置を一度設置しておけば、山にも水場にもわざわざ足を運ぶことなくモニタリングが可能です。
また、免許申請の必要な電波が届かない場所でも、無免許のLPWAなら、多大な費用をかけることなく通信環境を整えることができます。
農業にまつわる情報収集や分析の効率化
LPWAネットワークを耕作地に構築すれば、温度や湿度、含水率などの情報を容易に収集し、データの利活用が行なえます。
実際に、LoRaWANを使用した「マンゴー栽培の品質管理(沖縄)」「種まきや水やり時期の可視化(北海道帯広)」などの調査研究開発の事例もあります。
工場のあらゆるシーンで活用
農業や物流といった場だけでなく、工場でもLPWA技術は活用されています。
具体的には「クリーンルームの気圧管理」「倉庫内の温度や湿度の管理」などです。
対象に異常が発生した際には、パソコンで詳細を確認することができます。
あらゆる災害から身を守る防災対策
災害対策にもLPWA技術は有効です。
災害の起きる予兆をとらえるためにカメラを設置する場合、設置したカメラに電線やネット回線を接続しなくてはなりません。
しかし、地震や洪水の予兆をとらえるためにカメラを設置し、定期的にメンテナンスを行なうのは容易ではありません。
もしLPWAデバイスを活用すれば、電線も通信回線も引かずに設置が可能です。
電池交換などのメンテナンスを頻繁に行なう必要もありません。
手間をかけずに設置が可能なLPWAデバイスは、新しい災害対策といえるでしょう。
総務省が推進しているICTの利活用にも、LPWAが貢献することは間違いありません。
※ICTとは…Information and Communication Technology(情報通信技術)の略。通信技術を活かしたコミュニケーションのこと。情報処理のみならず、インターネットといった通信技術を利用する産業やサービスなどの総称としても使われる。
LPWAで生活がもっと安全に快適になる
無線通信技術「LPWA」には、低消費電力かつ長距離通信が可能というメリットがあります。
しかし通信速度は遅く、Webページを閲覧するような一度に大量のデータ受信が必要となる用途には向いていません。
ただし、通信速度を必要としないケースであれば、IoT機器との組み合わせでさまざまな対象の監視・管理を、容易に実現することが可能になります。
たとえば、工場にある部品倉庫の温度・湿度を管理したり、農地の照度や二酸化炭素濃度を監視したりすることも可能です。
監視対象が遠隔地にある場合でも、頻繁にシステムを点検することなくモニタリングできる点は、あらゆる産業に携わる人にメリットをもたらします。
ITの発展とともに多くの技術が生まれ台頭していますが、LPWAも重要なテクノロジーの一つとしておさえておくことをおすすめします。
- LPWA(Low Power Wide Area)は低消費電力で長距離通信が可能だが、通信速度は遅い
- LPWAにはさまざまな規格があり、通信速度や通信距離に差がある
- さらなる発展が予測されるIoT社会において、LPWAはおさえておきたい技術の一つ