SIer業界からの転職、4つの選択肢とメリット・デメリットを紹介
IT業界ではITベンダーの人材不足が深刻になってきています。
2008年に起こったリーマン・ショック以降、長らく冷え込んでいたITシステム投資が増え続けているためです。
とくに、2014年から2015年にかけて、マイナンバー制度の中核システムである「情報提供ネットワークシステム」や、みずほ銀行の次期勘定系システムへの移行、東京電力や日本郵政グループのシステム改修といった大規模プロジェクトが、佳境を迎えたことが主な要因ですが、むろんそれだけではありません。
クラウドやスマートデバイスを活用した新たなシステム需要が高まりを見せていることも、この状況に拍車をかけています。
概算で数万から十万人単位で人材が不足しているという試算を耳にしますが、この状況がいつまで続くかは未知数です。
先に挙げた大型プロジェクトは、いずれも2017年までには完了する予定ですし、2020年の東京オリンピックに関連したシステム投資も聖火が新国立競技場に灯る頃には一段落するでしょう。
その後の景気次第では、今日の状況とは真逆の「エンジニアの余剰」時代がこないとも限りません。
こうした先行き不透明感がある一方、ウォーターフォール型の開発スタイルや多重下請け構造を前提としたビジネスモデルもいつまでも維持できるはずがないという話を最近よく耳にするようになっています。
業界全体が「特需」に浮き足立っている今こそ、あえて今の会社から離れたキャリアパスを考えてみたいというITエンジニアも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、SIerにお勤めのエンジニアの皆さんが選択しうる4つのキャリアパスについて、それぞれメリットとデメリットを検証してみようと思います。
Contents
SIerは生き残るにはどうすべきか?
SIer(システムインテグレーションを行うSI事業者のこと。システムインテグレーター)が生き残るには、高い技術を簡単に使いこなす高レベルなエンジニアを確保することです。
SIerはクライアントの目的に合わせて、コンピューターのシステム構築・開発を請け負います。
Webサービスが普及するとともに、SIerへの依頼も増えました。
しかし、今SI業界(SIer業界)には大きな問題があります。
それは低コストでありながら、高い技術とそれに伴った大きな効果を求められるようになったことです。
かつては、目的に合わせてシステムを構築することがSIerへの業務依頼でしたが、今はそれだけではありません。
SIerが普及することにより、ニーズの多様化が進み、効果があったかどうかも顧客にとって重要なポイントとなったのです。
問題は他にもあります。人材不足です。
人材不足なうえに、高い技術を求められているのが今のSIer業界。
生き残るには高い技術を身につけ、それに伴う大きな効果、才能ある技術者だと顧客に実感させる必要があるのです。
SIerが請負う主な業務は、「企画」「要件定義」「設計」「運用」。
- 「企画」は顧客の悩みが何か、解決に向けての分析すること。
- 「要件定義」はその悩みをどうシステムに落とし込むかの考えること。
- 「設計」は実際にそのシステムを開発すること。
- 「運用」は問題なく運営ができているか、もし問題が起きたらそれに対処すること。
高い技術とは、設計のことでもあります。
ただし「企画」「要件定義」の過程で方向性が決定するので、こちらも高い技術を身につけるうえで欠かせない業務です。
人に言われた作業をする「設計」「運用」も大事な業務ですが、開発に関わることでスキルが磨かれます。
さまざまな技術をクリエイティブに使いこなせるエンジニアを確保することが、SIerに求められています。
SIerのキャリアプランにはどんなプランがある?
SIerのキャリアパスは、転職や独立があります。
そして、SIerは大きくわけて3種類。
ユーザー系のSIerは、親会社の業務のみです。
野村総合研究所や新日鉄住金ソリューションズといったユーザー企業に勤め、親会社の業務を行います。
メーカー系のSIerも親会社の業務をやりますが、7割程度です。
その他の3割は、営業で受注した業務を行います。
そして、独立系のSIerは基本全てが営業で手に入れた仕事なのです。
良い職場に転職すれば、給料アップも望めるかもしれませんし、大きなSIerなら扱っている仕事内容も異なり、今の業務よりもやりがいのある業務を任されるかもしれません。
専門的なスキルを身につけ、SE転職するケースもあります。
社内SEは言わばシステムの管理人。
作業内容や業務は限られているかもしれませんが、管理職で肝心な「運用」に努めることもSIerにとって大事な仕事です。
情報システム部門に転職する人もいます。
メリットデメリットで選ぶ4つのキャリアパス
ここでは、4つのキャリアのメリットデメリットを紹介します。どれが自分に適しているか参考にしてください。
① より上位のSIerに転職する
■ メリット
理想的な仕事環境や、年収アップ、待遇改善が狙えるかも
■ デメリット
年齢が上がるごとに技術力以外の能力も厳しく問われる
上位のSIer、大手SIer(ITゼネコン)に転職出来れば、上流工程や大型案件に関わるチャンスも増えるでしょうし、人手不足の今なら、年収アップや待遇改善が期待できます。
しかし、旧態然としたビジネスモデルの中に留まることには変わりないため、業界の将来に不安がある方には、根本的な解決にはつながらないでしょう。
また、企業規模が大きければ業界構造の変化にも耐えうると考えた場合、今の職場でメンバーをマネジメントする統率力や企画提案力、さらにその企画を実現するプロジェクト遂行力など、技術力以外の実力を磨いておくことが欠かせません。
転職時の年齢が高くなればなるほど、こうした力量が問われる傾向が強くなるので、転職に踏み切るタイミングを正しく見極めることも非常に重要になってきます。
② 自社サービスを運営する会社に転職する
■ メリット
仕事の成果と事業の成長が直結した環境が得られる
■ デメリット
結果がすべて。幅広い守備範囲が求められることも
受託開発に携わるエンジニアであれば、予め決められたスケジュール通りに機能を実装しさえすればエンジニアとしての評価はある程度担保されるでしょう。
しかし、自社サービスの開発は結果が全て。
終わりなき改善への意欲と変化に富んだ市場環境に素早く対応する瞬発力が欠かせません。
小規模な組織であれば、一人でフロントエンドからバックエンド開発にも携わらなければならないことも多いため、限定された領域に没頭したいタイプや、安定志向が強い方にはかえってストレスが溜まってしまうかもしれません。
逆に言えば、最新技術の吸収に貪欲で、サービスの成果にコミットしたいという意欲がある方には、成長意欲が刺激される環境だと言えます。
③ 事業会社の社内SEに転身する
■ メリット
自社のために最適なシステムが設計出来る
■ デメリット
成果が出せなければ仕事を失う可能性も
どんな業種、業態の企業であれ、一定以上のシステム規模になれば専任の管理者が必要になります。
事業会社に活躍の場を見出すエンジニアも多いはずです。
ただし、「技術トレンドを追いかけることに疲れたから、事業会社でのキャリアを目指す」というのであれば、あまりお勧め出来るキャリアパスではありません。
一般にシステムの「子守り役」のイメージが強いWebエンジニアと言われる社内SEですが、近年は安価で高性能なクラウドサービスやスマートデバイスの登場を背景に、新規事業の創出や売上向上に貢献する「攻め」の姿勢が求められるようになってきているからです。
もし、こうした期待に応えられなければ、コストセンターと見なされ自分の仕事がアウトソーシングされるかもしれません。
技術力、発想力、企画力を兼ね備えたエンジニアにチャンスが多い領域といえるでしょう。
④ 独立起業・フリーランスになる
■ メリット
自分の能力と報酬が直結。成果に応じた収入が望める
■ デメリット
実力が伴わなければ市場から淘汰される
独立系SIerは技術力と成果がダイレクトに収入に反映されるため、正社員よりも高いレベルの自己管理能力が問われるのがフリーランスです。
当たり前のことですが、これから歩むべき進路を指し示してくれる上司はいませんし、営業や事務なども自分でこなさなければなりません。
むろん、起業ともなれば開業資金や運転資金の準備も欠かせませんから、安易な選択は慎むべきでしょう。
もし特定分野の技術に注力したり、多種多様な技術に挑戦したりすることが目的でこの道を選ぶなら、派遣エンジニアとして経験を積むのも一つの手です。
いずれの場合も、高い技術力を保ち続けなければ市場から淘汰されてしまうため、安定志向の方には向きませんが、頑張った分だけ報酬が得られる喜びは正社員にはなかなか味わえないものです。
SIerがWeb業界へ転職した場合の実態
SIerとWeb業界は、似ているようで違う職種。
Web系との違いは何なのでしょうか。
まず異なるのは開発期間です。
SIerはWeb業界よりも長い時間をかけ、システムが構築されるのです。
それはWeb業界の方が柔軟性があるからです。
スプリントと呼ばれている14日の期間で作成されるのが一般的で、それ以降は必要に応じて変化します。
Web業界は、まず決められた中でベストを尽くすことが目的なのです。
SIerは、要点をまとめ、その要求に応えるように企画、構築されます。
プロジェクトマネジメントを徹底し、スケジュールは厳守で、システムに変更はありません。
SIerは完璧なものを作る作業なのです。
SIerは関わる人数も多く、スケジュールも徹底されているので、Web業界よりも抱えるストレスは多いといわれています。
平均収入はSIerの方がWeb業界よりも高額ですが、それを考慮してもWeb業界に転職する人がいるということは、それだけ抱えるストレスが多いということでしょう。
Web業界はプログラミングの楽しさを再確認させてくれるはずです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
もちろん、これらのメリット、デメリットを検討した結果、今の会社に残ってプロマネ(プロジェクトマネージャー)を目指すという選択もありうるでしょう。
中にはITコンサルタントを目指す人もいます。
どちらにせよ、IT技術を向上することは肝心です。
大事なのは、いますぐどの道を選ぶか決めることよりも「売り手市場」であるうちに、選択しうるキャリアパスを検討しておくべきだということ。
不況期はどうしても選択肢が限られてしまいます。
これから転職活動をされる方は、どの大手IT企業がいいのか、SIerがいいのか検討してみてください。
既にSIerに就職している方は、ぜひこの機会に5年後、10年後のキャリアプランを考え、スタートアップしてみてはいかがでしょうか。