「インダストリー4.0(第4次産業革命)」とは?デジタル技術で進化する次世代産業
「インダストリー4.0」とは、IT技術を駆使し、製造業を中心にさまざまな変革を促そうとする一種の概念です。
「第4次産業革命」とも和訳され、設計や生産、物流、保守といった産業の営みをデジタル化し、新たな価値を創出することが主なコンセプトになっています。
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インダストリー4.0が目指すもの
IT技術を駆使して変革を産み出そうとするインダストリー4.0では、製造業における「スマートファクトリ」の実現が主な目的です。
スマートファクトリ(スマート工場)とは、生産設備などにIoT(モノのインターネット)の考えを取り入れた先進的な工場を意味します。
しかし、さまざまな文脈で語られるインダストリー4.0には、上記の目的のみならず、産業界全体を最適化し、新たな価値を持った新産業を創り出す狙いも秘めているといいます。
日本でインダストリー4.0といった言葉が使われる際は、とりわけ前者の意味合いで語られるケースが多くみられます。
また、新産業の創出など後者の意味合いを持つインダストリー4.0に習い、日本政府は「ソサエティ5.0」と呼ばれるスローガンを提唱。
さまざまな国家プロジェクトが進んでいます。
この記事では、前者を「狭義のインダストリー4.0」、後者を「広義のインダストリー4.0」として、以降解説していきます。
狭義のインダストリー4.0
「製造業でシームレスな生産を促すため、ある工程から次の工程に移る際に発生する人手の擦り合わせ作業を、デジタル技術などを用いて自動化する。」
これが、狭義のインダストリー4.0の狙いです。
これらを目的とする狭義のインダストリー4.0は、統一されたデジタルデータや規格などの下で生産ラインの各工程を回すことを、重要視しています。
また、最新のデジタル技術を用いた生産データの共有に加え、多くの工場や企業をつなぐIoTの考えなどが、狭義のインダストリー4.0を進める不可欠な要素とされています。
スマートファクトリの構想を実現する例としては、ドイツ製造大手シーメンスの「ダイナミックセル生産」方式が挙げられます。
このダイナミックセル生産は、生産ラインの工程を複数に分割。
各工程を担うロボットが、クラウドに格納されている多様な情報にリアルタイムでアクセスし、さまざまな情報に応じて生産を行う方式です。
この画期的なダイナミックセル生産については、ドイツの自動車部品大手ボッシュも採用。
ドイツでは、スマートファクトリの実現に向けてさまざまな企業が取組みを進めています。
広義のインダストリー4.0
広義のインダストリー4.0が掲げる新産業の1つには、次世代の移動サービス「MaaS(マース)」が挙げられます。
マースとは、(マイカーを除いた)タクシーやバス、電車、シェアサイクルといった公共交通機関などのシステムをITでつなぎ、スムーズな移動を促すサービスです。
自動車産業や公共交通機関、ITサービスが連携するマースは、正にあらゆる産業が融合した新産業と言えるでしょう。
また、「マスカスタマイゼーション」も広義のインダストリー4.0が目指すものの1つとされています。
マスカスタマイゼーションは、コンピュータを活用して細かな要望に応じた特注品を素早く製造。
そして安価に消費者へ提供する行為やシステムを指しています。
具体的な事例としては、ドイツの圧縮空気システムメーカー、ケーザー・コンプレッサーの圧縮空気従量課金サービスが挙げられます。
これまで同社は、圧縮空気そのものを販売するのではなく、圧縮空気を製造する機器を販売してきました。
しかし、最新のIT技術により圧縮空気の供給・製造状況などを精密にモニタリングできるようになったことで、供給量に応じて課金するシステムが実現可能になったのです。
インダストリー4.0が生まれるまで
4回目の産業革命とも言われるインダストリー4.0ですが、これまで世界はどのような産業革命を経てきたのでしょうか。
実際に、振り返ってみましょう。
18世紀末の英国で起こり、近代の扉を開いた「第1次産業革命」では、水力や蒸気機関によって工場の機械化が進み、生産性が飛躍的に高まりました。
また、20世紀初頭から始まった「第2次産業革命」では、大量生産ラインの発展によって一層生産性が向上。
米フォード社が開発した「T型フォード」の画期的な生産ラインをはじめとして、ベルトコンベアを用いた能率的な分業や、部品の規格化が進展しました。
この結果、安定した品質で、安価に製品を供給できるようにもなりました。
そして、次に現れた革命が、1970年代初頭から始まった「第3次産業革命」です。
電子制御技術を駆使した生産ラインのオートメーション化が、人的作業などを大幅に削減。
コストの削減や生産性の向上、品質の安定化がさらに進みました。
インダストリー4.0に関する事例には、広義のインダストリー4.0が目指す新産業の創出、そしてスマートファクトリを目指す狭義のインダストリー4.0双方の要素を兼ね備えた取り組みも存在します。
その1つが、フランスの化粧品メーカー、ロレアルのシステムです。
同社は、肌の質や色などを解析し、パーソナライズされた化粧品を各消費者へ提供することに成功。
さらに、デジタル技術などを活用した高度なベルトコンベアを開発することによって、シームレスに商品を生産する仕組みを作りました。
また、IoTで市場の分析結果と生産ラインなどを結び付け、最適な生産数を最適な数だけ生産する画期的な工場を稼働させています。
インダストリー4.0が提唱された背景とは
これら3度の革命を経た2011年、ドイツが国家戦略プロジェクトとして打ち出したのが、まさにインダストリー4.0です。
11年は、08年の「リーマンショック」による傷痕がまだ残っており、各国が経済をどのように立て直すのか模索していた時代でもあります。
当時、スマートフォンなどの登場でIT産業が急成長していくことは確実視されていましたが、建設業や自動車産業、農業など他の産業は、今後成長する筋道が全く見えない状況でした。
しかし、こうした状況の下、ドイツ政府がインダストリー4.0の概念を提唱。
拡大するIT産業を原動力にして、他の産業を成長させるといった魅力的なコンセプトは、ドイツのみならず世界中の政府や企業を魅了しました。
また、インダストリー4.0(Industry 4.0)の言葉はドイツ発祥であることから、「Industrie 4.0」とドイツ語風の表記で扱われる例が各国でみられます。
インダストリー4.0を促進するIT技術
インダストリー4.0が支えるIT技術の1つは、「CPS(サイバーフィジカルシステム)」です。
これは現実世界で収集した情報をサイバー空間で分析し、それらを多様な産業に役立てる仕組みで、分かりやすい例えとして自動車が挙げられます。
センサーなどから得た物理的情報をコンピュータがデジタル解析し、駆動制御に活用したりドライバーへ情報を与えたりするイメージが近いかもしれません。
また
- テレビなどでよく見聞きする「AI(人工知能)」
- 大容量データの高速通信を可能にする「5G(第5世代移動通信システム)」
- 「量子コンピュータ」
- 「3Dプリンター」
といったIT・デジタル技術が、インダストリー4.0を促進しています。
このように、デジタル技術は異質なモノやコトを融合させる有効なテクノロジーであり、インダストリー4.0にとって不可欠です。
私たちが普段スマートフォンでテキストや音楽、動画などを一度に見聞きできているのは、これらが”デジタルデータを用いた同一の仕組み”で扱われているため。
つまり、あらゆるモノやコトをデジタルデータ化することができれば、それらを組み合わせた新たなコンテンツや産業が生まれるかもしれません。
インダストリー4.0が進んだ未来
インダストリー4.0の波及効果は、世界中のあらゆる職種・業種・産業に広がっています。
特に製造業については、生産のデジタル化やオートメーション化が進むため、「これから人間はどこでどのように働くことになるのだろう」と不安や疑問を持つ人がいるかもしれません。
しかし、実際には、人間が判断すべきことや、人間にしかできない作業は必ず残ると言われています。
また、”人間だからこそ創ることができる価値”をいかに産み出すかが、企業に求められる時代になるでしょう。
現在、ファクトリー・オートメーション分野では、ロボットなどと人間が協調することで、一層効果を産み出すことができるシステムの開発が進んでいます。
インダストリー 4.0時代の技術開発では、人と機械の協調が注目されるかもしれません。